TechJapanでは、主にインドのテック人材と日本企業とのマッチングプラットフォームを展開しています。インド⼯科⼤学等と連携して新卒採用を行えるTechJapanHub、テック人材のデータベースから社内での開発を支援するTechJapanLab、中途採用をサポートするTechJapanJob。これらのサービスが生まれた背景、目指していくビジョンを、CPO(Chief Product Officer)のDeb Kumar Mondal(デブ・クマール・モンダル)に聞きました。
Deb Kumar Mondal
<プロフィール>1994年インド ドゥルガプル生まれ。インド工科大学ムンバイ機械工学科を卒業し2016年、日本企業に就職。大手企業の研究開発エンジニアやマネジメント及び戦略コンサルタントを経て、Tech Japanに参画。Tech Japan Hub /Tech Japan Labのプロジェクトマネジメントの責任者として従事。2023年1月、CPO就任。
ーはじめに、サービスをつくろうと考えたきっかけを教えてください。
Deb:きっかけは、インド工科大学出身である私自身の原体験です。就職するとき、アメリカなどの企業の情報はたくさんありましたし、卒業生の先輩もいました。しかし日本企業の情報はほとんどなく、探すのも難しい状況でした。私は一社だけ日本企業に応募し、インターンに参加。それが自分にとって良い体験で、絶対に日本で働きたいと思い内々定をいただき、そのまま日本で就職しました。それ以降、大手コンサルティング企業など数社を経て7年間、日本で働いています。日本で就職して良かったと思っています。
就職してから、インドの大学の後輩たちからよくSNSに連絡が来るようになりました。日本のどんな企業が技術開発をしているのか、どんなふうに働けるのか、どんなポジションを目指せるのか、先輩はいないのか。後輩たちもかつての私と同じように、日本企業の情報を探していました。こうした情報を一つの場所で得ることができれば、みんな助かるのではないかと考えるようになりました。
そんなとき、TechJapan代表の直さん(西山)と出会いました。西山さんは、日本企業側の課題感についてよく知っていました。インドの大学から採用したいけれど、採用の実態がブラックボックスになっていてハードルが高い。一緒に何ができるか具体的にイメージができない。採用に踏み出しても、大学側のルールが厳しく、良い人材を採用するのが難しい…などなど、企業側にも課題感があったのです。
インドでは日本で働きたい学生が情報を求めていて、日本企業側も採用したいのに、うまくいっていない。このミスマッチを解消しようと、直さんと一緒にプロダクトをつくることにしました。それがインド⼯科⼤学等と連携して新卒採用を行えるTechJapanHubです。
ー学生側と日本企業のミスマッチを解消するために、最初にTechJapanHubが生まれたのですね。どのようにサービス化していきましたか。特に力を入れたことは?
Deb:最も力を入れたのはヒアリングです。日本企業のCEOやCTOが採用時に何を大切にしているのか、どんな情報があれば採用に踏み切れるのか聞いていきました。採用しようとしても履歴書しか学生の情報がなく、情報が不足していて紐付けも煩雑であることがわかってきました。そこで、学生の経歴やポートフォリオなどの情報をひとところにまとめ、採用のプロセスを簡易化しました。
学生側にもヒアリングしました。学生が特に大事にしているのは先輩の声です。大学内で口コミベースで広がっていたものを、デジタル化することにしました。インド出身の先輩がどんな企業で、どんなポジションで働いているのかレポートを作り、プラットフォーム内で共有しています。また、必要であれば私や希望の企業の先輩と会える仕組みにしました。
加えて、このサービスには大学も重要なステークホルダー。就職課の方々と話し合いました。インドの大学側の厳しいルールに従って就職活動ができるようサービスを構築したほか、大学側から学生がどんな企業で就職活動をしているかわかるよう、情報を見える化しています。
さらに、大学の教授や経済産業省、日本企業の方々とディスカッションの機会を設け、どのようにミスマッチのリスクを防ぐか検討していきました。ここで出てきたのが、インターンシップを活用するアイデアです。短時間の面接だけで契約すると、ミスマッチが多く発生してしまいます。私の後輩も何人か日本にきましたが、入社してみたらイメージと違ったという話も聞いていました。インターンを活用すれば、学生側も企業側も、もっとお互いをよく知ることができます。企業側は候補者のマインドセットや将来のビジョンを、学生は企業文化や実際の業務を知ることで、ミスマッチのリスクを防げると考えました。
こうしたヒアリング内容を受けて、企業と学生がお互いの情報を一覧でき、インターンシップから内々定を経て就職できるプラットフォーム、TechJapan Hubができました。3年ほど運用し採用を支援してきましたが、Hubを活用して就職した人は現在もモチベーション高く働けていると結果が出ています。
ーTechJapanLab、TechJapanJobのサービスはどのように生まれましたか?
Deb:Hubをつくって半年くらい経って、安定してきたころLabのサービスを作りました。インドには新卒だけではなく、中途で日本企業で働きたい候補者もいます。ただ、転居や現在の仕事の都合で、今すぐ転職は難しい。一方で日本企業も、インド高度人材を採用したい気持ちはあるものの、マネジメントなどに不安があり、即採用するのはリスクが高いと考えていました。
そこで、中長期での採用をサポートするためにTechJapanLabのサービスをつくりました。6ヶ月のアジャイルプロジェクトから始めて一緒に働き、良かったら企業から採用のオファーを出せる仕組みです。
具体的には、企業と話し合って、「モバイルアプリを作りたい」「インド市場に合わせたプロダクトを作りたい」などのニーズからプロジェクトを組みます。Labにはウェブやアプリの開発者やデータエンジニアなど約5000人の候補者のネットワークがあります。その中からプロジェクトに合う人材を紹介し、面接を経てチームを作ってプロジェクトを実行していくのです。候補者は本業を持っている人がほとんどなので、1日数時間、副業的にプロジェクトに入ってもらい、フィットするか互いにテストすることができます。
ーサービス化する上で大変だった部分はありますか。
Deb:時間やモチベーションのマネジメントです。企業側には、「採用はしたいけれどマネジメントが不安」という声が多くありました。そこで、マネジメントのサポートシステムを構築していきました。言語や文化が違うと、コミュニケーションに齟齬が出る可能性もあります。まず我々が毎週企業と開発者のミーティングに参加し、何がうまくいっているのか、うまくいっていないのか聞き取り、候補者側に伝え改善を図りました。コミュニケーションを密にとってそれぞれの懸念点を払拭し、それを仕組み化しています。
ーTechJapan Jobについても教えてください。
Deb:TechJapanJobはインド高度人材の中途採用をサポートするサービスです。日本企業の求人に応募する人はいるものの、誰が合うのか評価するのが難しい現状がありました。そこで、コンサルタントとAIの力を使って、より良いマッチングを提案するJobをつくりました。採用が決まり、来日が必要な場合は、連携している行政書士と共にビザの取得や日本受入れのサポートもしています。TechJapanではインド法人も設立しました。候補者がインド在住のままで働けるのであれば、インドの法律に合わせて問題なく働けるよう、インド法人の方でサポートします。採用だけで終わるのではなく、中長期的にモチベーション高く働けるよう、今も改善を繰り返しています。
ーサービス全体で、採用だけでなく中長期的に働いていけることを重視しているのですね。
Deb:はい。私たちが考えるマッチングとは、今必要なものを開発してくれる人を見つけるのではなく、「ずっと一緒に働ける仲間を探せる」ということです。
仲間とは、考え方がマッチする人。開発するだけで終わりではなく、一緒に企業の将来を考えてくれる人です。いまもマッチングシステムは多数ありますが、どうしても候補者を技術的に求人に合わせています。すると、今必要な技術はあっても、考え方や方向性が合わない場合が多いのです。
候補者側も、企業のCTOやCEOの指示を待つだけでは、モチベーションを保つのが難しい現状があります。プロダクトにオーナーシップを持ち、それが生み出すインパクトを見たいと考える人が多いのです。だからこそ私たちは、企業のプロダクトビジョンを理解し、一緒に考えていける仲間を見つけるお手伝いをしたいと考えています。
インターンやアジャイル開発など中長期で一緒に働く機会や、これまで蓄積した我々のノウハウやAIの力でつくる最適なシステム。これらを通して、一緒に夢を実現するプランを考えられる仲間との出会いを、つくり続けていきたいです。